朱華(はねず)の色


染司よしおか工房の庭に咲くザクロの花

工房の庭に咲くザクロの花

私の染工房の庭にザクロの花が咲いている。新緑の小さな葉のかさなりのなかに、鮮やかな黄味のかかった赤色に、通りかかる人も眼をうばわれるのか、立ち止まっては眺めていく。今年は、例年より早く咲いて、もう散りかけのものもある。そのあとには、これも花と同じような鮮烈な色の小さな実がなっている。

ザクロは中近東からインドにかけてが原産の植物でシルクロードを東進して、中国を経て日本へもたらされた。これほどどこの自然風土にも生育する丈夫な樹も珍しいといわれている。

遠く奈良時代、天武天皇の時に、「朱華」という色名が用いられた。これは中国において、「黄丹」という黄赤の色が尊ばれていたことの影響らしいが、日本の、万葉の時代の人々は、ザクロの花を往時「はねず」と呼んでいて、その花を色名としたらしい。

文字どおり、朱がかった華の意味で、これを表わすには、朱や鉛丹といった顔料がふさわしいが、染色においては、あらかじめ支子で黄色に染めてから、紅花を何度もかけて、濃くしていくのがいい。

ザクロの花も実も初夏の頃は、まさに朱のような彩りであるが、やがて実が生長していくと、緑と赤のまじった果皮になって、なかには赤いジュースを含んだ種がたくさんできる。

果皮は採集したあと、乾燥させておくと、下痢止め、虫下しなどの薬にもなり、染料にもなる。だが、その色は赤ではなくて、渋い黄色に染まる。眼に見える植物の色素の色と、実際に染色した色の不思議な関係である。原産地ペルシャでは絨毯の染料として知られる。

日本の色辞典『日本書紀』に登場する「朱花」や
『万葉集』に登場する「朱華」の色について
より詳しくは『日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)


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