日本列島の四季の移ろいは、日毎にゆっくりゆっくりとすすんでいく。落葉樹も夏の暑い盛りには深い緑色をたたえているが、秋が近くなって、涼やかな風が吹いてくると、青い葉がわずかに黄ばんでくる。
私たちが団栗と呼んで親しんでいる木の実も葉の間にいくつもの実を付ける。団栗というのは、ツルバミ、ナラ、クヌギ、カシなどの実を総称して、そう呼んでいるのである。
青白橡 (あおしろつるばみ) という古い色名があって、夏の終わりの団栗の実の青さの残る色をそう称している。また、それを麹塵 (きくじん) ともいう。
麹塵とは、麹黴 (こうじかび) の色である。平安時代、天皇だけが着用できた禁色 (きんじき) で、室内のほのかな明るさでは薄茶色に見えるが、太陽の光のなかに立つと、緑が浮くように映える。
『延喜式』には、「青白橡綾一疋。苅安草大九十六斤。紫草六斤。灰三石。薪八百四十斤」と、その染色法が記されている。
普通、緑系の色を出すには藍と黄色を掛け合わせて染めるのだが、これはその例外で刈安と紫草の根を掛け合わせるのである。
どのような色であるか、私の工房で『延喜式』にのっとって染めてみた。さいわい、刈安は近江の琵琶湖の東、伊吹山で採れたものがある。紫根は京都福知山で丹精こめて栽培しておられるものを譲っていただいたものもあった。
色は不思議な緑系に染めあがった。
麹塵・青白橡・山鳩色の色標本と詳しい解説は
『日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)