栗色(くりいろ)


落栗

落栗

栗の樹に、毬 (いが) がはじけるように大きくなって、数えられないほど付く季節になった。秋の風が栗をゆらすと、土の上に一つ、二つと、それが落ちていく。棘がささらないように拾うと、なかには赤味をおびた茶色の艶やかな実が入っている。思わずそれを口にする時のことが浮かんで、舌なめずりするようである。

こうした想いは、王朝の貴人たちもおなじようで、衣裳の襲のなかに、落栗というのが出てくる。『源氏物語』のなかの「行幸」の帖で、九州太宰府からもどって光源氏に引きとられている玉鬘の成人の儀式、つまり裳着の儀式が行なわれる。そのときに、末摘花からお祝いの品が届く。その一枚に「落栗」の色の衣裳があると記されているのである。

この「落栗」は、後世の解説書などに、濃紅、あるいは濃紅に墨を入れた色、蘇芳を黒味に染めたもの、というように、いずれも濃赤を少し黒くした色のような表現になっていて、栗の色をかなり赤味に映ったように記している。

ところが江戸時代に書かれたものには、梅の樹皮をまず鉄漿で黒く発色したあと、石灰で発色したともある。私どもの工房では、栗の毬を煎じて染めて、石灰で発色して染めてみた。そのほうが栗色にふさわしいと感じたからである。

日本の色辞典栗色落栗色落栗の襲の色標本と詳しい解説は
日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)


カテゴリー: 季の色
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