煤竹色(すすたけいろ)


燻された竹の美しい赤茶色

燻された竹の美しい赤茶色

夕闇がせまるころになると、だんだんと冷え込みがつよくなって、火が恋しくなる季節になってきた。

ひと昔前まで、田舎の家に行くと、囲炉裏が切ってあって、そこに薪と炭火があかあかと燃えていて、自在カギがつるされ、白い煙がゆっくりと天井にのぼってゆく風景があった。

その煙のとどく先の棚には竹が何本も置いてあって、長い歳月によってそれらの竹は燻されて美しい赤茶色になって、いかにも落ち着いた佇まいを見せるのである。

「煤竹色」というのは、まさにこの燻された竹の色のことで、煤竹茶ともいわれる。このくすんだ赤茶色の竹を、侘び茶に通じる人たちは好んで、草庵風の茶室の天井に用いたり、茶杓やその入れ物に使ってきた。

江戸時代には、町人たちが赤や紫といったあざやかな衣裳を着ることは贅沢であるとして、たびたび禁令が出た。そこで町方の人たちは茶や黒の色に趣をもとめ、そのなかでも煤竹色はとくに好まれたようで、元禄時代の染屋の指南書に「すす竹、下地をねずみに染て、上をもも皮のせんじ汁に染るなり」と書かれて、早くも町人好みの粋な流行色のひとつになっていたことがうかがえる。

私どもの工房では、矢車という木の実を使って、まず鼠色に染めて、つぎに阿仙というやや赤味の茶色を出す染材をかけて「煤竹色」を表現してみた。

火の恋しくなる晩秋にふさわしい色である。

日本の色辞典煤竹色の色標本と詳しい解説は
日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)


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