新しい年をむかえた。昨年の12月はまだ暖かであったが、暮れから正月にかけては京都の街にもときおり雪の舞う日もあって、厳しい寒さがまだ続いている。
工房の前庭には、福田さんが運んできてくれる稲藁が高く積まれていて、例年どおりの冬の景をなしている。
そこに竈(かまど)があって、毎朝八時半をすぎるころに、火を入れて藁を燃やすのである。私どももそのそばに寄り、手をかざして暖をとったりして、10分ほどのくつろいだ時間となる。
その横には地下100メートルから汲みあげられている井戸水が伝わっていて、寒い朝は湯気がたっている。井戸水は冬でも14〜15度あるからである。
この藁灰は、紅花を染めるためのもので、毎日毎日2月の終わりまで燃やしつづけるのである。
近ごろの稲田では、コンバインによって稲刈りがおこなわれており、穂から米を収穫したあとは、藁は刻まれてそのまま田圃に蒔くようになっている。したがって稲藁を集めるのに苦労するわけであるが、私どもは伏見区向島の山田ファームさんに頼んでいる。
山田さんは有機無農薬にこだわって作物をつくりつづけている。稲も旧式に刈り取って、天日干しをしてから籾を採るので、昔ながらに藁がのこるのわけである。
燃やしたあとの灰は、大きなタンクにつめて、その上から熱湯を注いでおく。1、2日そのままにしておくと、その液には藁灰の成分が十分に溶けていく。それをタンクの下の穴から汲みだして貯めるのである。液は弱いアルカリ性になっていて、それで黄水洗いした紅花の花びらを揉むと、赤い液が溶出してくるのである。
紅花の染色に、藁灰は欠かすことのできないものなのである。