今回は、柳の文様に注目してみよう。いまの季節、新緑があざやかで、柳葉も身をふるったようにみずみずしい姿を各地の川畔に見せてくれていよう。そんなことを思いながら、『日本のデザイン第9巻』の柳図の屏風絵や襖絵を見ていくうちに、柳の背景にはいかにも人工物が多く描かれていることに気づかされた。桜や松竹梅の絵にはほとんどない人工物である。(物語絵巻は別)
まず橋である。そして水車、舟、蛇籠である。つまり、柳橋水車図なのだ。橋の直線と柳のたおやかな曲線が画面構成の妙といえるわけだが、蒔絵櫛や小袖の文様にも取り込んだ積極性はなぜなのだろうかと思わざるをえない。
平安以来、貴人たちが別業を営んだ風趣な地、宇治の川辺を名所絵風に描けば、すなわち柳橋水車図になるのではないか。憧憬の地を一つの文様パターンにしたさきがけと見ることができよう。
『日本のデザイン9: 藤・柳・春夏草』
吉岡幸雄 (編集)
紫紅社刊