文字どおり「ぶどう」色と読んでしまうが、この色名の由来は、古代から日本に自生していた「エビカズラ」(葡萄葛) にある。ヤマブドウの古名でる。
ヤマブドウは、山のなかに自生していて、少し開けて陽の射すところによく見られる。秋の終わりには葉が美しく紅葉し、実は紫色に熟す。
この実は食べても美味しく、ジャム、ジュース、ワインにもなり、今は東北地方では栽培もされている。
平安時代の物語や詩歌によく見られる色名で、やや赤味をおびた紫色という表現がふさわしいようである。
『源氏物語』「花宴」の巻では、主人公である光源氏が、右大臣邸の藤の花宴に招かれるが、まだ遅咲きの桜も残っている頃であったので、その出で立ちは、「桜の唐の綺の御直衣、葡萄染の下襲、裾いと長く引きて……」とある。
この葡萄色の襲は、四季に着用されるが、とくに冬から春にかけて着られたようである。ヤマブドウの生態からみれば、晩秋から初冬が好適かと思われる。
ブドウの汁で染めたものという説もあるが、平安時代に記された『延喜式』には、「葡萄綾一疋。紫草三斤。酢一合。灰四升。……」とある。紫草の根を臼で搗いて布袋に入れ、よく色素を揉み出した液で染め、椿の灰で発色させて紫の色を濃くするのである。
そのとき、紫草の根の液には少し酢を足しておく。それは、紫の色を赤味にする工夫である。
葡萄色の詳しい解説は
『日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)