植物染料で染める色には深みがあって、布の奥底から光を放っている。見る角度や光の当たり具合で、色は微妙に変わる。それがどうしてなのかはわからないが、ひょっとすると、長い時間をかけて、いくつもの工程をふんで染めることと、染料がそのような工程を経て繊維の深いところまで染み込んでいくことに、なんらかの関係があるのかもしれない。
あるいは、植物から得られた染料は百パーセント純正ではないので、たとえ肉眼では見えなくても、ほんのわずかな不純物が含まれていることによって、色を眼にいきいきと映えるようにしているのかもしれない。天然染料で染めた布の場合によくあることだが、色に眼がとまると、まるで、眼に触覚があるかのような感覚で、視線が色の上に触れて、そのなかに入り込むのである。
植物染料からは、濁った茶色か、あるいは暗い色しか染められない、という意見の人がいまの人には大勢いる。それは先入観なのだが、あながち無理もない話である。
というのは、今日では、植物染料による染色は、趣味の一種としてしか知られていないからだ。真剣にプロとして、植物染料を使った染色を高度な技術水準でおこなうことができる染め職人もほとんどいない。そのためか鮮やかな紫や、眼の覚めるような鮮烈な赤や黄色の色調を、私の工房は植物染料だけで染めているのだといっても、ほんとうにしてくれないことがよくある。
「虹色どろぼう:染司よしおかの植物染」より
日本の色辞典
日本の伝統色の色標本・色名解説の集大成
著者: 吉岡幸雄
染色: 染司よしおか 福田伝士
発行: 紫紅社